JA営農経済事業の自己改革を目指そう

今村奈良臣

今村奈良臣

今村奈良臣

JA-IT研究会代表委員

東京大学名誉教授
(一社)日本協同組合連携機構特別顧問
(一財)都市農山漁村交流推進活性化機構(まちむら交流きこう)理事長
(一社)農山漁村文化協会会長
JA人づくり研究会代表委員
食と農の応援団団員

JA総合営農研究会の新たな使命

JA-IT研究会から総合営農研究会へ

JA-IT研究会は、2001年の暑い夏に、JA甘楽富岡の会議室で生誕の声をあげた。 それから着実に活動をすすめ、創立18周年に記念すべき50回大会を学士会館で盛大に開催するとともに、名称もJA-IT研究会からJA総合営農研究会へと改名し、新たな飛躍を目指して活動を推進しようとしている。

初心忘るべからず

JA-IT研究会の旗上げにあたり、私はその代表委員に選ばれたが、いかなる背景のもとに、いかなる考えにもとづき代表を引き受けたか、その初心を改めてここに述べて、これからの研究会推進の原点を考えて頂こうと考えている。

■農産物貿易自由化の最初の「いけにえ」

JA甘楽富岡管内の主産物はかねてより、生糸とコンニャクであった。 その生糸が1962年に生糸の輸入自由化により海外の安い生糸が大量に輸入され、産地として立ち行かなくなり、さらに追い打ちをかけるように1995年のガット・ウルグアイラウンドのコンニャクの輸入割当の廃止、つまり輸入自由化により生糸、コンニャクを中心にかつてはJA甘楽富岡の農産物売上は約83億円あったものが一挙に激減し僅かに10億円になるという惨状を呈していた。
こういう惨状を前にして、当時、JA甘楽富岡の営農企画本部長をされていた黒澤賢治氏の策定されていた「かぶらの里ベジタブルランド」計画を私なりに読みこなし、かつ、標高70mから840mに至る管内土地条件を生かした作付計画を含む地域農業再建計画を精読しただけでなく、現地を踏査させて頂いて、感銘を受け、さらに生産物の販売戦略の斬新な発想と実践に眼をむいて、これこそが、全国のJAの手本になると考え、設立予定のJA-IT研究会の代表委員を引き受けて全国のJAへの新戦略、新戦術の発信拠点にしようと考えた次第である。

■輝かしい再生の経験を、全国のJAに
 周知のようにJA甘楽富岡管内は鏑川が貫流しているものの水田はほとんど無く、畑と桑園がすべてであり、それも傾斜地が圧倒的に多く、また伝統的に著名な下仁田ネギなどはあるものの、首都圏100㎞の立地を生かした多彩な野菜類、キノコ類の新作目を開発し、首都圏の消費者の望む農産物を開発するしかなかったのであろう。

この課題に黒澤賢治営農本部長は敢然と立ち向かい精力的な活動を通して、今日のJA甘楽富岡の輝かしい再生の姿を見ることができたのである。その心意気と、農協の役職員ならびに老若男女の組合員の熱気を肌に私は痛切に感じて、この新生JA甘楽富岡の路線を全国のJAに拡げるべきと考え、研究会代表を引き受けたのである。

P-Six理論の提示

この黒澤賢治営農本部長の計画とその実践をつぶさに分析、考察するなかから、これを理論化し、一般化し、どこでも誰でも実践できる原則にまで高めるべく考察を深めた。その結晶が、第1図に示した「P-Six理論」である。どこのJAでも実践可能な理論として提示できたと考えている。
この第1図の左辺は「主体的条件」、右辺は「市場的条件」となっているが、この6角形のすべての条件を実現し、10点満点の正6角形に作り上げてほしいと考えているのである。

図1 P-Six理論の提案と実践

図1 P-Six理論の提案と実践

■主体的条件について

まず、左辺の主体的条件から入ろう。
組合員にいかに「やる気を起こさせる」かということが基本である。「やる気を起こさせる」条件や根拠をいかに作るかが、JA営農指導の基本である。高齢者や若者あるいは女性、それぞれが違うかもしれない。しかし、のちにみるように「売れるもの」をいかに作るかが「やる気を起こさせる」基本である。
ついで重要なことは「立地を生かす」ことである。各地のJA管内それぞれは多彩な立地条件にあると思うが、その立地特性を生かすことが基本である。
ちなみに黒澤営農本部長の計画書では、同じ谷でも標高差50mおきに作付計画書が異なっていたことに私はかつて眼を見張ったことがある。要するに立地条件を最大に生かしながら「やる気を起こさせる」ことが基本だと考えている。
さらに重要なことは「Personality」つまり、人材をふやし、リーダーを生かすということである。甘楽富岡にも多彩なリーダーがいた。高齢だが、ニラ作りでは一番とか、小カブ作りでは一番だとか、イチゴ作りでは一番だとか、年齢、性別にかかわらずすぐれた方々がいて、その方々がリーダーとなってそれぞれの集落で活躍して、生産を上げている姿を私は見つめてきた。この条件はどこのJAでも同じではなかろうか。大事なことは、このような地域リーダー、作物リーダーを見出すことのできるJA営農指導部があるかないかにかかっているように思う。

■市場的条件について

これもJA甘楽富岡黒澤営農本部長の販売戦略、販売戦術をつぶさに観察、調査するなかから、その核心を整理したものである。

Production:売れるものを作る、という鉄則である。何が売れるか、何を消費者は求めているか、ということを仔細に調査し、作付・生産計画を策定し、実践に移すことである。
Place:売り方、売り先、売り場を考え、実践するということである。卸売市場などへの出荷だけではなく、最終消費者に喜んで買ってもらえる仕組みやルートをきちんと開発し、実行することである。
Price:さらに重要なことは常に「値ごろ感を設定する」ということである。この値ごろ感という視点はこれまでのJAは全般的に弱かったと思う。

なお、合わせて「市場的条件」にかかわって指摘しておきたいことは、JAが核になって「農業の6次産業化」をいかに実践するかということである。「6次産業化」ということは、私が今から27年前に提起し、多くの地域で実践されていることは改めて解説は不要だと思うが、「生産(1次)×加工(2次)×販売(3次)=6次産業化」ということである。 こういう実践を踏まえつつ、黒澤本部長は常に「値ごろ感を設定」し、消費者がつい手を出したくなる戦略、戦術を磨いてきた。

■P-Sixの完成を

JAの営農経済事業の本質は、以上述べたような「P-Six」路線を実践することだと私はいまでも考え、かつ指導してきている。
どうか、JA-IT研究会発足の初心に立ち帰って、このP-Six路線とJA営農経済部門を核にして推進して頂きたいと考えている。

着眼大局・着手小局 人材養成セミナーを通じて提起したこと

JA-IT研究会は次世代の人材を生かすべく毎年9月初めに2泊3日の泊まり込み研究セミナーを行なってきたが、その中で、若いJA職員に多くの示唆を与え、特に営農企画担当者の活動のさらなる展開のエネルギーのもととなった、と評価されている私の講義の一端をここに示しておこう。
それが、別図に示した「サッカーの理論・実践をJAに活かす」というものである。

図2 サッカーの理論・実践をJAに活かす

図2 サッカーの理論・実践をJAに活かす

まず、この図の説明から始めよう。

  1. フォワード(FW)は農畜産物等の販売部門に当たる。いかに得点をあげるか、つまりいかに巧みに販売するか、全力で当たらなければならない。
  2. ミッドフィルダー(MF)は、営農企画部門に当たる。このMFが巧みに球さばきを行ない、FWに良い球を出すことによって、得点を得ることができる。サッカーの勝利への組み立ては、このミッドフィルダーにあると言われているが、JAにおいても営農企画部門で、いかなる農産物をいかに作るか、作る人たちをいかに組織するか、ということに全力をあげなければならない。
  3. ディフェンス(DF)は、金融、共済、資材、購買、財務、さらに管理部門に当たる。しかし、サイド・バック(SB)は状況に応じて両サイドラインを駆け上がり、適切な球出しをMFあるいはFWに行なわなければならない。JAで言えば、適切な融資を行うとか、必要な生産資材を的確に生産者に届けるということになろう。
  4. センター・バック(CB)およびゴールキーパー(GK) 管理、財務、総務等の部門に当たる。センター・バックともども全力をあげて失点を防ぎ、さらに次の攻撃にいかに備えるかという重要な部署である。
  5. 組合長は総監督、さらに専務、常務等役員、部長等はそれぞれの担当のコーチ等に当たる。

以上が、サッカーの理論と実践のポジションごとに簡潔に示したものであるが、これで判るように営農企画(MF)とフォワード(FW)の連携が、必勝体制のためにいかに重要であるか理解できたと思う。

しかし、サッカーで常勝するためには、サポーター、つまり強力な応援団が必要なのである。特に女性サポーターの多いチームは強いと言われている。組合員はもちろん、准組合員、そして女性組合員がサポーターになり強力な応援団がいるチームにならなければならない。それがチーム全員の意識を高め、活力を増し、常勝チームへと成長していくのである。
サッカーで勝利するためには役・職員一体となって「着眼大局・着手小局」つまり「全体を大きく見すえて戦略を構想し、実践は着実に小さなことを積み重ねていくこと」にある、と私は考えている。JAの活動のスタイルもそのように推進して頂きたいと願う。

(2019年6月記)

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