JA営農経済事業の自己改革を目指そう

今村奈良臣

今村奈良臣

今村奈良臣

JA-IT研究会代表委員

東京大学名誉教授
(一社)JC総合研究所特別顧問
(一財)都市農山漁村交流推進活性化機構(まちむら交流きこう)理事長
(一社)農山漁村文化協会会長
JA人づくり研究会代表委員
食と農の応援団団員

JAほど人材を必要とする組織はない

◆目次◆
1. 人材とは何か
2 .JAは地域の生命線
3. JAは「地方創生」の中核になろう


JAほど人材を必要とする組織はない。かねてより私はこのように機会のあるたびにJA関係者、とりわけJAの指導的幹部に説いてきた。もちろん、現代社会において、どの企業もどの組織も人材の重要性を認識していないところは無いと思うが、その中にあって、私はとりわけ、JAほど人材を必要とする組織はない、とこれまで説いてきた。
先ず、人材とは何か、ということから述べてみたい。

1.人材とは何か

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第1図 人材の5つの要素

では人材とは何か。分かりやすく理解してもらうために、第1図のような五角形を私は描き説明している。
各頂点に、企画力、情報力、技術力、管理力、組織力の5つの要素を示してあるが、この5つの要素の総合力を保有しているのが、人材であると私なりに考えている。簡潔に分かりやすく述べてみよう。

企画力

分かりやすくいえば、種を播く前に、売り先、売り方、売り場、買い手、売り値などを明確に考え、指導し、構想する能力。要するに、Plan-Do-See、あるいは計画―実践―評価などがきちんとできる能力といってもよい。別の表現をすれば、常に仮説を設定しておこうということである。

情報力

情報力は受信力と発信力の2つの要素で構成される。受信力は、先人、先学の学理や経験、実践について学ぶことからまず得られる。さらに広く社会経済、あるいは農業・農村の分野についての調査、情報収集、それらの分析、考察を通して得られる知恵と能力である。
他方、発信力は受信力の蓄積を基礎に、その分析、考察を踏まえ、広く地域や社会あるいはJA組織、組合員などに対して発信をする能力である。この両者を一体としたものが情報力であると私は考えているが、特に若い世代には受信力に磨きをかけるようすすめている。

技術力

技術力とは、伝統技術と先端技術の両方について勉強し、多様な実践の場で生かす能力と考えている。特に農業分野においては、伝統技術は数千年にわたって蓄積された先人の知恵と技能の結晶であるが、それらを身につけていかに生かすかという能力である。
先端技術については、常に研究、習得を怠らず活用しようとする態度が必要であろう。しかし、例えば遺伝子組み換え技術のような安全性について未知数のものについては慎重の上にも慎重を期す態度が必要であろう。要するに、この伝統技術と先端技術の両者を、特に農業・農村との関わりが深いJA役職員にあってはしっかりと身につけられれば鬼に金棒ということになろう。

管理力

管理という分野が近年急速に拡大してきている。例えば、人事管理、財務管理、経営管理、労務管理、さらには安全管理等々、管理という言葉の前に付く言葉を数え上げれば際限がないほどに増えてきた。『広辞苑』で「管理」の項を引くと「管轄し処理すること。良い状態を保つように処置すること。とりしきること」とある。そこで、是非皆さんにすすめてみたいことは、図書館に行き、例えば初版の『広辞苑』から最近の第6版の『広辞苑』までひき比べてみて、○○管理というように管理という言葉の前につく語彙がいかに増えたか、なぜ増えたか、どの分野で増えたか、自らの眼で確かめ、熟考してもらいたいと思う。それを考える中から管理力の必要性、重要性を自ら習得してほしい。

組織力

現代社会では1人で行なえることには極めて限界がある。とりわけ農業に関わる分野では常に組織力が要求される。個を生かしつついかに組織的に多面的活動を行なうか、ということがますます求められているのが現代社会の基本課題である。その要求される能力は多岐に渡るが、「個を生かし組織力を高める」という考え方で自らを磨いてもらいたい。

総合力の発揮

以上、各項目について簡単な解説を試みてきたが、重要なことは、この5つの要素の総合力である。
前掲の五角形の各頂点を10点満点と考え、現在の自分はそれぞれの項目について何点か、一度評価してみるとよい。私の考えでは「これはすぐれた人物だ」と評価できた人は、5項目ともに8点以上の方だと考えている。もしある項目が8点以下であると自己評価したならば、伸ばすよう努力を重ねてほしい。
私はこの五角形をグループ討議などに活用し、参加者の自己評価と他者評価をスコアで表現し、討議を重ね、人材として成長していくための手段としてこれまで色々な分野で活用してきた。

多様性が活力の源泉

しかし、よほどの人でない限り、この五角形で表現した5つの要素を万遍なく、すべて8点とか10点はとれないだろう。そうした人は多くない。
私はかねてより、「多様性の中にこそ真に強靭な活力は育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない」と考えてきたし、いろいろなところで説いてきた。しかし、同時に「多様性を生かすのはネットワークである」とも説いてきた。つまり、多様性と表現されるような個性をさらに伸ばしつつ、短所を改め、欠陥を補い、新たな創造を目指すためには、どの組織でも地域でも、とりわけJAではすぐれたネットワークを創り上げるべきだと説いてきた。

JAの盛衰は人材にある

さて、JAについて考えてみよう。JAの果たすべき基本的機能は、次の3点に集約されると私は考えてきた。

1. マーケティング機能
2. コンサルティング機能
3. マネジメント機能

この3つの機能を十全に発揮するためには、それらを発展、充実させるべき人材がますます必要とされてくる。さらに、この3つの機能を統括し、総合し、体系化し、推進するための人材をJAは必須としている。
JAの盛衰は人材にある。JAほど人材を必要としている組織はない。

個性の光るJAを創ろう

この頃痛切に私が感じていることは、キラリと個性の光るJAが少なくなってきているということである。個性の光るJAにはすぐれた人材がいる。個性に充ちたJAを創ろうではありませんか。そのためには、JA-IT研究会に参加して、自らを磨こうではありませんか。

2.JAは地域の生命線
     その核心は、生産・販売戦略の革新と向上をはかり、食と農の距離をいかに縮めるか、が課題である

JAの生命線は、営農指導、販売戦略にあると私は考えている。金融や共済は銀行や郵便局、そして保険会社もある。しかし、農産物の販売力がJAに無ければ効果的な戦略、戦術は成り立たないと考えている。もちろん、このように言っても、JAの信用事業や共済事業の重要性を決して軽視しているわけではない。営農指導や販売事業の重要性を浮き彫りにしたいがために強調しているのである。しかし、現実は厳しい。
こうした課題をいかに改革、改善し、新しいJAの生産・販売路線を提示すべきか。

JA-IT研究会の副代表をされてきた黒澤賢治氏(かつてのJA甘楽富岡の営農事業本部長)や仲野隆三氏(JA富里市常務理事〔当時〕)は、これまでこのJAの最大の課題に全力をかけて取り組んでこられ、JA-IT研究会で指導してこられた。その経験と実績を総括しつつ、研究会において、常に取り組むべき課題と改革路線を提示してこられた。最先端を行く農産物販売戦略を市場や消費の動向の激変の中でいかに打ち出すべきか、いかに改革をすすめるべきか説いてこられた。私はもちろん、この分野における専門家ではないし門外漢ではあるが、その改革へ向けた新路線を私なりに整理し、その基本原則を示しておきたいと思う。JA-IT研究会20年の活動の中でこの2人から教わった基本問題の核心を私なりに整理すれば、次の2点に集約できる。

P-SIX理論の開発と提案

その1つが、P-SIX理論である。
第2図に示したように、英語のPで始まる単語を六角形の頂点に配置することにより、黒澤、仲野両副代表の説かれる農産物販売戦略の核心を明らかにしたものである。
簡潔に説明しよう。
六角形の頂点はすべてPで始まる英単語で構成されており、六角形の右辺は市場的条件、左辺は主体的条件とされており、この六角形に示した総ての条件を10点満点で充たすような方向へ、営農指導と販売戦略を構築すべきである、という課題を提示したものである。

図2 営農指導と販売戦略ん展開

図2 営農指導と販売戦略の展開

右辺の「市場的条件」について解説すれば次のとおりである。

①Production
要するに「売れるものを作る」ということが原則である。もっと判りやすく言えば、「種子を播く前に、売り先、売り場、売り値などをしっかり考える」ということである。
②Place
これは「売り方、売り先、売り場を事前にしっかり設定しておく」ということである。販売戦略の改革の基本である。
③Price
消費動向、市場調査をしっかり踏まえつつ、「値ごろ感」を常に主体的に確定しておくべきである。

六角形の左辺は「主体的条件」について示してある。

④Promotion
「やる気を起こさせる」ということであり、JA担当職員はもちろん、生産者、組合員も「そういう路線なら大いに頑張ってやろうではないか」という条件を作り上げることである。
⑤Positioning
「立地を全力をあげて生かす」ということである。それぞれのJAの持つ地域特性を生かして生産、販売戦略を確立していかなければならない。黒澤氏のJA甘楽富岡は標高150mから940mいたる標高差を生かした農業と販売戦略を展開しているし、仲野氏のJA富里市は東京圏の巨大消費人口を背景に近郊畑作、野菜地帯の特性を生かした販売戦略を展開してきた。
⑥Personality
「人材を増やし、マネジャー、リーダーを生かす」、これは言うまでもないことで、解説の必要はないであろう。JA-IT研究会に参加して、人材として磨き上げなくてはならない。

3.JAは「地方創生」の中核になろう ―5ポリス構想にもとづく「地域創生」を―

5ポリス構想とは

地方創生を真に実りあるものにするためには、明快な仮説とそれを実現するための手段と方法、そしてその実現に向けた主体的努力と多彩なネットワークの形成が不可欠である。さきに国会で成立した地方創生法ならびにその関連法をはじめとするさまざまな分野からの提案には、それらの構想力が欠如しているように思う。
私が構想し提案する地方創生の骨格を一言で表現するならば、「5ポリス構想」とそれを実現するための多彩なネットワークの形成である。

では、「5ポリス構想」とは何か。
「ポリス(Polis)」とは、ギリシャ語源の都市、あるいは拠点ということを意味する言葉だが、「5ポリス構想」はそれを援用した私の造語である。そして、5ポリスとは「アグロ・ポリス」「フード・ポリス」「エコ・ポリス」「メディコ・ポリス」、そして「カルチュア・ポリス」のことである。
このように、あえてなじみの薄いような造語を用いたのは、これまで、地域活性化や農業・農村を対象に論じられてきた政策論や運動論あるいは構造論などを取り上げてみても、いずれの分野でも既成の用語や概念には特有の意味合いや背景が組み込まれていて、つまり手あかにまみれていることにかんがみ、まったく新しい視点と方法によって地域創生を考え実践するためには、新しい用語と考え方ならびに実践路線を用意する必要があると考えたからである。
そこで、以下順に5ポリスの内実と目指すべき方法の基本スタンスを述べておこう。

「アグロ・ポリス」とは
いうまでもなく農業の拠点である。農業就業人口の減少、高齢化の急速な進展のなかで、旧来からの慣習にとらわれずにそれぞれの地域にふさわしい新しい地域農業再生の路線を構築しようという意図を込めてアグロ・ポリスを提起した。
集落営農の組織化、農地の地域の合意にもとづく効率的な集積を基盤にした法人化の推進、高齢者の技能を生かした「大小相補」の路線の強化、土地利用型部門の徹底的合理化と新たな集約部門の導入とその組合せ、「老中青婦」の新しい結合と組織化など、私がこれまで調査してきた先進地域の姿を集約すれば、ここに示したような路線がすすめられており、こういう新しい方向性を示すのが「アグロ・ポリス」の姿である。

「フード・ポリス」とは
多彩な農畜産物あるいは林産物・水産物の加工や直売所をはじめとする販売戦略の開発、推進、展開など、私が25年前に初めて全国に向けて提起した「農業の6次産業化」の推進である。「地産・地食」を原点とするレストラン、食堂はもちろん、直売所活動も「地産・地消」の原点から、近年さらなる展開を見せ、消費者ファン、とくに都市のファンの求めに応じて「地産・都消」、その延長としての「地産・都商」へと進化している直売所も増えてきている。さらに加工品も非常に多彩になり、伝統的な加工品はもちろん、現代風の多彩な加工品、さらには消費者の高齢化にも対応して持ち運びの容易かつ調理に簡便な果物、野菜などのドライ・フルーツ、ドライ・ベジタブルが非常な勢いで伸びてきている。ここでは若者の先端技術と高齢者の伝統技術の結合がポイントになってきている。

「エコ・ポリス」とは
里地・里山の保全、農村景観の維持・修復、さらには豊かな水利・風力・太陽光などの自然資源の利活用を通じた現代にふさわしい生活・居住環境の整備、新しい時代にふさわしいグリーン・ツーリズムなどの実現である。都市から人びとが訪ねてみたい、さらには住んでみたいと思える景観と環境を農村につくろうではないか。

「メディコ・ポリス」とは
高齢化がすすむ農村に必要不可欠な医療・介護などの施設と、その多面的な活用を図るための重層的なネットワークを実現することである。そのもっとも典型的かつすぐれた活動は、長野県の佐久総合病院を核としたそのシステムに学ぶべきことが多い。

最後の「カルチュア・ポリス」とは
どの市町村あるいは集落においても存在する歴史的な神社仏閣、あるいはそこにまつわる多彩な伝統芸能などの文化遺産、さらに都会には無い長年受け継がれてきた伝統技術、伝統技能、たとえば世界文化遺産とされた紙すきの技術、陶磁器に関わる技術、多彩な木工技術等々、数え上げていけば無数とも言える技術あるいは技能、さらには各地で育まれてきた食文化など、多彩な文化を日本のどの地域でも長年にわたり育んできたその総体を指す概念である。それらに改めて現代の光をあてつつ、その伝統を将来に向けて生かす人材を都市からも迎え入れるとともに、新しい時代にふさわしい農村、都市交流の拠点を作り上げる必要があるのではなかろうか。

「地域創生」に向け、正五角形を描いて地域を点検しよう

以上、5ポリスについて簡潔にその特徴を述べてきたが、この五つの要素のすべてに磨きをかけつつきらりと光る地域をいかにつくるか、これが、私の――「地方創生」ではなく――「地域創生論」である(政府の言う「地方創生」は中央から見た上から目線であり、地域の主体、内発力を等閑視する危険性を内包していることに注意する必要がある)。

農村のどの地域でも、この5ポリスとして私が整理した要素は必ずもっていると思う。しかし、これまで必ずしも十分に光があたらず磨きがかけられず、あるいはまた地域の皆さんが、それぞれの地域の持っているすぐれたところに気付かずに、意識的、主体的にその新しい方向を推進してこなかったのではなかろうか。

まずは、正五角形を描き、その各頂点にこの5ポリスを置き、その頂点を10点満点として、自らの地域の現状は何点か採点してみて、どのようにすれば10点に近づけることができるか、地域の各階層―たとえば地域の住民、農民の皆さん、地域のリーダーの皆さん、さらには市町村行政担当者や農協などの農業団体の皆さんに採点してもらうことから始めてみてはどうであろうか。それらを集計しつつ、地域創生のためには5ポリスのどの部分の充実に力を入れなければならないか、そのためにはいかなる改革や活動をしなければならないか、さらに国や地方行政組織はどの分野で何をなすべきか、を問いかける、など地域住民の皆さんの自主的、主体的活動から、新たな地方創生は始まるのである。もちろん地域の主体的活動のみではできにくいことは多い。そのために地方自治体―市町村や都道府県、さらには国は何をなすべきか、あるいは何をしないほうがよいのか、ということが明らかになるであろう。

こういう地域からの主体的活動の中から真の地方創生=地域創生は可能となると私は考える。
こうした「地域創生」の新路線を各地域のJAそしてJAの役職員は率先して推進しなければならない。そのためにも、JA-IT研究会に参加し、自らを磨き上げ地域創生のために全力をあげようではないか。

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(2016年5月記)

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