テーマ JA営農経済事業改革はどこまで進捗したか、そして見えてきた課題は何か?
  ――協同システムをベースにした事業の再構築
日 時 2017年6月15日(木)13:00  ~  16日(金)11:30
会 場 JAビル27階 大会議室(東京都千代田区大手町)

*開催概要はこちら 詳細は各報告名をクリックしてください

司会 松岡 公明(JA-IT研究会 企画委員)

1日目 6月15日(木)

参加者同士で顔が見える机の配置で

開会挨拶

大西 茂志(JA全中 常務理事)

課題提起1 協同システムをベースにした事業の再構築

黒澤 賢治(JA-IT研究会 副代表委員)

課題提起2 「取扱高至上主義」から「収益・リスク管理型」事業運営への転換

仲野 隆三(JA-IT研究会 副代表委員)

実践報告 JAいわて花巻の営農経済事業改革の経緯と課題

阿部 勝昭(JAいわて花巻 代表理事組合長)

総合討論 わがJAの取り組みと課題(1)

 

2日目 6月16日(金)

総合討論 発言のキーワードを書き出す

課題提起3 これからのJA営農経済事業改革

小林 元(広島大学 大学院生物圏科学研究科 食料資源経済学講座助教)

総合討論 わがJAの取り組みと課題(2)

 

閉会挨拶

今村 奈良臣(JA-IT研究会 代表委員)

◇JA-IT研究会2017年度総会

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開催概要

 「JA自己改革が言われ、さまざまな事例も出てきているが、各JAが何をどう取り組んできたか? 自己改革は今どういう段階あるのか? 何が課題なのか? 参加JAそれぞれの実践経過と課題を出し合い、これからの営農経済事業改革の方向性を見出したい」――このような趣旨で企画された今回の研究会に、全国から計58人のJA役職員、他団体役職員および個人が参加し、討議を行なった。

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●協同組合としての事業改革とは?

 JA-IT研究会では、「自己改革の本来の意義が忘れられ、買取販売や単純な資材価格の引き下げといった小手先の手法に矮小化されてはいないか? 協同組合の原則を踏まえた事業改革でなければならないのではないか」という問題意識で議論を続けてきた。まずこの視角から、JA-IT研究会の黒澤・仲野両副代表委員が課題を提起した。
 黒澤氏はJA甘楽富岡の営農経済事業改革の経緯を詳説。その根底には、明治5年から続く農家組合などの地域組織と、部会などの生産組織とを車の両輪とする協同活動があると示した。この協同活動のなかでJAから組合員への情報開示、組合員からJAへのニーズの吸い上げ、組合員間の討議が不断に行なわれ、組合員がみずからコスト意識をもって事業運営に参画する仕組みを築いている。同JAの営農経済事業の黒字化は、そのような協同システムによってこそ実現したのだと黒澤氏は強調した。
 仲野氏は、農産物の買取販売や生産資材の価格引き下げを安易に行なえば、売れ残りや債権管理などのコスト・リスクの発生、手数料収入の減少といった新たな問題の発生につながると指摘。販売高など事業の「ボリューム」を偏重する「取扱高至上主義」から脱却し、事業のコストとリスクを意識した収益管理・リスク管理型の運営へと転換すべきだと説いた。また、そのためには事業コストとリスクを点検・見える化して組合員と共有するところから始めなければならない、と情報開示の重要性を示したうえで、「系統グループの数値目標に沿うのではなく、組合員とともに知恵を絞り、地域に合った自主自立の自己改革を進めよう」と呼びかけた。

●地域農業の将来を組合員ととことん話し合う

 続いて、JAいわて花巻阿部組合長が同JAにおける営農経済事業改革の経緯と課題を報告した。
平成20年に広域合併により発足した同JAであるが、地域によって歴史も風土も違うなか、組合員の意識をどう統一するかが最大の課題だった。また、集落の担い手が減るなか農家組合の再編を手がけたが、地域の伝統文化を背負った農家組合を統合するのは大変なことであり、再編には10年かかったという。
 そこで、現状を踏まえて将来の地域農業をどうするかを話し合う「地域営農ビジョン運動」を展開。ともかく農家組合員のところに出向き、話し合いを重ねた。その結果、農家組合の再編が実現し、それをベースに集落営農法人の設立も進んだ。各農家組合に営農部長・生活部長といった役職を置き、組合員に仕事を与えたことも運動の原動力となったという。
 「組合員のところに出向き、一緒になって地域にあったJAビジョンをつくる」という姿勢は今も続いており、特に常勤役員は年2回、27支店に出向いて各支店の組合員と直接対話し、酒を酌み交わしているそうだ。JAに出荷していない担い手とも連携して共乾施設を自主運営方式にすることで、稼働率を上げて黒字にする、地域の篤農家に「農の匠」を委嘱して技術普及を進めるなど、農家と二人三脚での取り組みも盛んである。

●兼業農家を含むすべての住民の参加を

 今回の公開研究会では、2日間で計4時間の「総合討論」の時間を設けた。単に優良事例報告を聞いて終わりではなく、参加者それぞれのJAで取り組んでいること、悩みや意見、課題を出し合い、解決の糸口にするためだ。
 1日目の総合討論では、まずJAいわて花巻の報告を受け、「地域農業を守るには、担い手だけでなく兼業農家を含むすべての住民の参加が大事である」ことが指摘され、そのような住民参加をどう促していくかが話し合われた。
 水田農業の厳しい実態も語られた。稲作地帯のあるJAでは「JA出資法人を立ち上げたところ、計画の倍を超える面積の条件の悪い農地が集まってしまった」という。管内に中山間地域をもつあるJAからは、「すでに道路と水路の管理もできなくなりつつある状況だ。これから先どうしたらいいのか」と、悲鳴にも近い意見が出た。それを受け、「高齢者でもできる品目や作業」が話題となった。

●残された時間は少ない

 2日目はまず、JA自己改革のあり方について盛んに問題提起している広島大学・小林元助教から、今日のJA営農経済事業改革の到達点および「本物の自己改革とは何か」について課題提起をいただいた。
 小林氏は、「『自己改革』のメニューを羅列するだけでは無意味。地域農業をどうするかという明確なビジョンが先にあり、そこに自己改革のメニューを組み込むのでなければいけない」と指摘。そのような自己改革の事例として、(1)バラバラだった米とリンゴを一体で捉え、地域農業の面的なデザインに着手したJAつがる弘前。(2)新規就農者が地域で暮らせる仕組みをつくり、地方創生・田園回帰をすすめるキュウリ産地のJAかいふ、(3)イグサショックから冬トマトの大産地になったJAやつしろの3事例を紹介した。
 また、「平成31年春に予定されている全組合員アンケートでJAが組合員から評価されなければいけない。残された時間は少ない」と危機感を喚起。そのためにも、認定農業者や大規模経営体だけでなく、大宗を占めるいわゆる多様な組合員にどう対応していくかがカギだと指摘した。
 その事例としてJAぎふの取り組みを紹介。同JAでは、組合員を類型化し、どの層にどう対応するか、JAの経営戦略を明確に図式化している。さらに常勤役員による認定農業者への訪問も実施し、一対一で組合員の本音を直接聞ける仕組みをつくっているという。小林氏は、「自己改革がすすんでいるJAは組合員と本当によく話し合っている」と述べたうえで、組合員から「JAって頑張ってるよね」と言ってもらうために、広報力と発信力の強化を呼びかけた。

●中小の農家にそっぽを向かれたらおしまいだ

 小林氏の課題提起を踏まえて、2回目の総合討論に入った。
 司会・松岡氏(JA-IT研究会企画委員)が「自己改革がスローガン化してはいないか。自己改革の方針が出ても、組合員まで情報が届いていない」と問題提起。これに対し各参加JAから、TACをはじめ、組合員との対話のさまざまな取り組みが報告された。
 すると小林氏が「いくら認定農業者を回ったところで、残り9割5分を占める中小の農家に『JAのことはよく知らない』と言われたら、それで終わりだ。その層に対して何ができるかという議論が欠かせない。『組合員の声を聞く』などは80年代から言われてきたことなのに、まだ同じ議論をしているようでは危機感が足りないのではないか」と辛口のコメントを述べた。最後に小林氏は「農協がやってきたことは間違っていない。しかし、組合員・地域住民への発信が非常に弱い。もっと自信をもって発信すべきだ。『協同組合とは何か』を自分の言葉で、老人・子供まで含めた地域住民に語ってほしい」と激励した。

(文責:JA-IT研究会事務局)

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